自閉スペクトラム症の
遺伝子パネル検査
自閉スペクトラム症は遺伝的要因と環境的要因が複雑に関与して発症する多因子遺伝疾患です。
遺伝的要因についてはあまりよくわかっていませんでしたが、近年の研究でその解明が進み、染色体の小さな欠失や重複のほか、単一の遺伝子異常や複数の遺伝子変化があわさるとおきる場合があることなどがわかってきました。
当院では新たな試みとして、研究施設に委託して、網羅的遺伝子解析で出現頻度が高く保険診療で検査が実施されていない症候群20種類について遺伝子パネル検査を行うことが可能となりました。
ご希望の方はお声がけください。検査を受けるかどうかは、事前の説明を聞いてからお決めいただいてもかまいません。(月曜午後のみ)
受診の流れ
1.事前の説明・カウンセリング
検査の内容や検査でわかること、わからないことについてお話します。
事前に「検査をご希望の方へ」をご参照ください。
結果によってはご両親の家系(ご両親自身の兄弟姉妹やそのお子さん)に影響する場合がありますので、かならずご両親揃ってお越しください。
じっくりお話を伺ったうえで臨床遺伝専門医が日々悩まれていることやご質問にお答え致します。
検査をご希望の方でもお子さまの状態やご希望内容によっては大学病院等の高次医療機関をご紹介させていただく場合もございます。
2.検査
ご本人から数mlの血液を採取し、研究施設に送ります。
※設備の都合上、当院では座って採血が可能な方に限らせていただきます。
3.結果説明
2~3ヶ月後の外来でお話します。
(※)1,2,3はすべて別々の日に行います。(研究施設への事前連絡が必要なため、ご説明当日の検査はできません。)
診察・検査料(★)
- 1.事前の説明 22,000円/60分
- 2.採血、検査料 88,000円
- 3.結果説明 11,000円/30分
検査をご希望の方へ
検査をご希望される方は、必ず下の内容をお読みください。
はじめに
遺伝子は人体を作る設計図です。1冊の本を想像してみてください。
塩基配列はその設計図に書かれている文字、遺伝子は設計図の本、染色体はその本が決まった順序で並べられている本棚のようなものです。
塩基配列はDNAとも呼ばれ、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4つの塩基からできています。
文字数は全部で30億にものぼり、この文字全てのことをゲノムと言います。
この文字列のうち、タンパク質の設計図の部分を「遺伝子」と呼んでいます。
ヒトには2万5千前後の遺伝子があると言われています。
染色体はヒトでは全部で46本あり、1~22番の番号がついているもの(常染色体)2本ずつと性染色体(XXまたはXY)からなります。(図1)
基本的に父母から1本ずつ受け継ぐため、常染色体について言えば、同じ遺伝子を2つずつ持っていることになります。(これをコピー数と言い、2コピーが通常です。)
図1:ヒトの染色体
遺伝学的検査について
遺伝的要因を調べる検査はいくつかありますが、現在本邦の医療機関で可能な検査では染色体検査と遺伝子検査があります。
染色体検査
ヒトには46本の染色体がありますが、これまでは目で見てわかる大きさの過不足や構造の変化を調べる検査(分染法)が主でした。
数年前からさらに細かく調べる方法(マイクロアレイ染色体検査)ができるようになり、分染法では分からなかった小さい過不足がわかるようになりました。
遺伝子検査
これまでは病気の原因が疑われる遺伝子だけを調べていく手法(ターゲットシークエンス)が主でした。
しかし実際には同じ病気でも原因となる遺伝子が複数あることが稀ではなく、調べた遺伝子とは違う遺伝子に異常があった場合にはそれを検出できないという限界がありました。
近年はいくつかの遺伝子をまとめて調べる方法(パネル検査)や、全ての遺伝子を調べる方法(全エクソーム解析、全ゲノム解析)が開発され、遺伝子の異常を網羅的に調べることができるようになりました。
また遺伝子以外の異常も病気の原因になることが分かってきました。
このためすべての塩基配列を解析する手法である全ゲノム解析が、研究的に行われるようになりました。
また多因子疾患に関連する遺伝子多型(遺伝子の機能を損なわない範囲での塩基配列の変化)の研究も報告されています。
それぞれの検査のイメージを図2と表に載せました。
一言に検査といっても解像度には大きな違いがありますし、得意、不得意もあるため、診断にはいくつかの検査を組み合わせる必要がある場合があります。
現在本邦では分染法、マイクロアレイ染色体検査と、一部の遺伝子検査(ターゲットシークエンス、パネル検査)が可能ですが、全ての医療機関で検査が行えるわけではありません。
例えばマイクロアレイ染色体検査は保険での検査が可能ですが、検査の実施が認められているのは一部の専門的な医療機関のみです。
遺伝子検査は保険で認められているものと、研究機関等との連携により自費での検査が可能なものとがあります。
それら以外の多くの遺伝子検査、全エクソーム解析、全ゲノム解析は研究的な取り組みで、一般の医療機関で行われることはほとんどありません。
図2:検査の解像度
検査方法 | 検査でわかること 検査のメリット |
検査でわからないこと 検査のデメリット |
一般的な医療機関での検査 | 当院 実施 |
||
---|---|---|---|---|---|---|
染色体検査 | 分染法 | 染色体の本数、構造の変化、5Mb以上の重複/ 欠失がわかる |
何らかの変異が見つかっても、病気の原因かどうか判定できないことがある | 小さな重複/ 欠失はわからない |
可能(保険) | 〇 |
マイクロアレイ染色体検査 | 分染法ではわからない微細な重複/ 欠失、ダイソミーがわかる |
染色体の構造変化や検出感度以下の重複/ 欠失はわからない |
承認を受けた医療機関のみ可能(保険) | × | ||
遺伝子検査 | ターゲットシークエンス | 1つの遺伝子の配列を調べる | 検査対象外の遺伝子に原因がある場合は検出されない | 承認を受けた医療機関や一部の医療機関で可能(保険、自費) | × | |
パネル検査 | 検査対象(数十~数百)の遺伝子配列の変異がわかる | 検査対象外の遺伝子に原因がある場合は検出されない | 一部の医療機関で可能(保険、自費) | 〇 | ||
全エクソーム解析 | 全ての遺伝子のエクソンを対象とした変異、コピー数変化が分かる | エクソン以外の変異は検出されない | 不可能(研究のみ) | × | ||
全ゲノム解析 | 全ゲノムを対象とした変異、コピー数変化がわかる | 予期しない遺伝子変異(全く別の病気の原因となる遺伝子の異常など)が見つかることがある | 不可能(研究のみ) | × |
表:検査のメリット・デメリット
次子再発について
次のお子さんについて心配されている方もいらっしゃると思いますが、症状のあるお子さんで遺伝子変異がわかっていることと、両親が同じ変異をもっているかどうかが分かっていることの両方の情報が必要になります。
わかっている場合でも重症度の予測はできないことがあります。
また症状のない未成年の方については原則として検査を行いません。
担当医からのメッセージ
臨床遺伝専門医、小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医としてたくさんのお子さんやご家族と接してきました。
遺伝に関する検査はこの10年あまりで大きく進歩し、たくさんのことが分かるようになりました。
一方で不確かな情報や検査もあふれるようになり、不安をあおられるように感じることもあると思います。
情報を整理するだけでもずいぶんとスッキリすると思います。
当院での検査をご希望でなくても、ご不安なことや聞いてみたいことがあればぜひお声がけください。
シャーロットこども発達クリニック
遺伝カウンセリング担当医師
宮奈 香(みやな かおり)