自閉スペクトラム症
神経発達症の中で2番目に多いといわれています。
2016年の米国の統計では約60人に1人と報告されており、日本でも同様にこどもの少なくとも1%にみられるとの報告があります。
診断基準が変わったことで、これまで自閉症、広汎性神経発達症、アスペルガー症候群、高機能自閉症と呼ばれていた診断名も含まれるようになりました。
症状
それではどのような症状が特徴で、周囲から気づかれるのでしょうか?
米国の小児科学会誌で2007年に紹介されていた特徴を紹介します。
- 視線が合わない、あやしても笑わないなどの親の懸念
- 生後9か月までに喃語がない
- 生後12か月までに指差しやバイバイなどの身振りがない
- 生後12か月までに名前を呼んでも振り向かない
- 生後16か月までに言葉が出ない
- 生後18か月までにごっこ遊びがない
- 生後24か月までに自発的な意味のある2語文(例:ママ、きた)がない
- 頻繁なかんしゃくや変化への抵抗、集団行動の欠如や遅れがある
これらの症状を早期に発見して、その子の特性として理解し、対応することが大事だといわれています。
かつて児童精神科医の佐々木正美医師は、自閉症は「病気」として治そう(修正しよう)とするのではなく、まず理解することが大事であり、それこそが支援の第一歩になることを強調しました。
これは、1960年代から始まった米国ノースカロライナ州でのTEACCHプログラム(Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Childrenの略語)が有名です。
自閉スペクトラム症を有するこどもたちの特性を「変える」のではなく「歩み寄る」、親に「原因を求める」のではなく、支援者と「協力し合う関係」、また家族や地域社会までも対象とする包括的なプログラムとして展開されました。
支援するうえで大事なポイント
そのなかで、自閉症の文化“Culture of Autism”として、以下の4つの点がこどもたちを支援するうえでとても大事なポイントです。
- 視覚情報処理での相対的な強み
- 細部への強い意識
- ルーチンを好む
- 感覚面の特徴
これらは自閉スペクトラム症(ASD)のDSM-5診断基準のなかでも、制限された反復した行動、興味・活動として例示されています。
例えば、おもちゃを並べる、同じ道順や手順、限定された興味とそれへの過度な集中、音への過敏などが挙げられます。
これらはおなじ自閉スペクトラム症(ASD)の診断のこどもたちのなかでも、症状は異なっているため、診断名をつけるだけでは実際の支援にはつながりません。
そのため、個々の評価(アセスメントともいいます)を行い、そのこどもにあった支援を成人期まで継続していくことがとても大切です。
評価するポイントしては、以下の項目に分けて考えます。
- 認知・学習能力
- 運動機能・身体的健康
- コミュニケーション・言語
- 仕事(作業)
- 遊び、余暇活動
- 家事、清潔
- 地域生活
具体的な支援の方法例を考えるうえで、“自閉症の文化”を理解し、自閉スペクトラム症(ASD)のこども達にあった形で提供するとよいでしょう。
まずは細部への強い意識についてです。
身近にある環境の特定の細部に注意を示している間に、彼らは物事の全体像をつかむことに失敗してしまいます。
そして、意識は「人」というより「物」に集まりやすい特徴があります。
たとえば、診察室に入った瞬間、医師である私に気が付くよりも、私の後ろに見えるカーテンやブラインドの乱れを整えにいくこどもが典型的です。
彼らの注意機能についても、興味のないものについては短く限定的です。
そのため、最初の課題はできるだけこどもたちに興味をもってもらえるようなアイテムを組み入れるとよいでしょう。
また感覚面とも関連することが多いのですが、自閉スペクトラム症を有するこども達はその場で求められる活動が始まる前に避けようとすばやく逃げ道を見つけだすことがあります。
特に、よく言葉で話しかけてくる大人、慣れていない大人が苦手で、彼らとのコミュニケーションから距離を取っている場合もあります。
そのため、まずは接する人の心構えをつくること、学ぶ環境づくりがとても大切です。
例えば、おもちゃがある遊ぶ場所と学ぶ場所はできる限り離れた場所につくるとよいでしょう。
また、気が散らないようにドアや窓から離れた場所だとよりよいでしょう。
私たち支援者が気づかないような音、香り、温度などに影響を受けてしまうことも多いので、落ち着かない場合にはそれらの可能性がないかも確認しましょう。
そして支援者も教える際には、手を添えて手伝う、見本を示すなどのやり方で、あまり言葉での指示や注意が多くならないよう気をつけましょう。
それでも注意が逸れてしまう場合には、難易度の低い課題に変える必要があるか、図書館のように机の仕切りがあるほうが集中できるのか、その子に応じて検討してみましょう。
定型発達のこどもたちに比較すると新しい学習には時間がかかります。
そのため、自閉スペクトラム症を有するこども達が新しいことを学習する際にはそのこどもがどのように反応するかを間近で繰り返し観察するとよいでしょう。
それによって、多くの気づきが得られ、次に教えることや課題の設定の仕方についても考えることができます。
座る位置についても工夫があるとよいでしょう。
常時動いてしまうような活発なこども達の場合、部屋のコーナーを活用した机を用意し、教える人が静かに隣に座ってあげるとよいでしょう。
このような落ち着いた環境で学習を繰り返していくうちに、ひとりで課題を行えるようになり、教える側も徐々に離れていくことが可能になります。
幼い自閉スペクトラム症(ASD)のこども達について取り組むための方法のひとつの例として、Shoebox Tasks®から学ぶことができます。
ポイントとしては以下の点がありますので、課題づくりの参考にしてください。
- 幼いこどもたちが手に取りたくなるような形、物を穴に入れ見えなくなっていく様子など取り組みたくなるような課題設定
- 処理すべき数が分かりやすく、明確な終わりがある。大人が指示をしなくても「見れば分かる」構造
- 視覚的に注意が逸れてしまわないよう(ビジュアルノイズを避けるため)シンプルな構造
- 手でつかむ、手指でつまむなどの微細・粗大運動スキルも自然に身につく課題
こどもたちの学習課題を作る際に、次の4つのことを忘れないでください。
- どのくらいの課題量を設定するのか?(ひとつ?ふたつ?それ以上?)
- なにを教えたいのか?(ひとりでできる?いっしょに行う?)
- どうやって課題は終わるのか?(下のかごに入れる?右の棚に戻す?)
- 終わったあとは何があるのか?(次の課題?それとも休憩?)
私たち支援者は、このような課題設定を通じて、こどもたちのより適切な行動を増やしていく、また狭く限られた行動や興味を広げていく必要があります。
「ルーチンを好む」という特徴を理解して、彼らに左から右へとあるいは上から下へと仕事をしたりスケジュールを参照したりすることを教え、徐々に行動・習慣に変えるようにしていきます。
小さな課題の繰り返しで身についた習慣は、新しい手段を受け入れることを手助けし、さらに彼らの経験を広げることにつながっていきます。
生活のなかでの経験値が増えることによって、余計なパニックや興奮も少なくなっていきます。
こどもたちが穏やかに成長・発達し、支援者も慣れてくると生活上の他の領域にまで応用できるようになります。
こどもたちのモチベーションを意識する
私たち大人もそうですが、いつもこどもたちが学ぶモチベーションがあるとは限りません。
体調が悪いときはしっかり休みましょう。
また、常に好むものを探しておくことはとても重要であり、それらを課題のなかに取り入れましょう。
また、課題と課題の間にお楽しみ時間(スナックタイム、リラックスタイム、プレイタイムなど)があるとより楽しみやすくなるでしょう。
“Teaching begins with a good assessment”という言葉があります。
「教えるということは、よい評価からはじまる」という言葉通り、実際の生活で使用している道具やおもちゃなどを用いて観察しながら行動を評価する方法や、専門家による検査用具を用いて評価する方法を組み合わせていくことが望ましいです。
自閉スペクトラム症を有するこども達を評価し、支援を考えていく際の大事な心構えとして、英国の児童精神科医師のローナ・ウイング氏は次の点を指摘しています。
「自閉症のひとは、時間と空間に適応することができない。
したがって、彼らのほうから我々の世界や文化に溶け組んでくることができない。
そのため、まず我々のほうから彼らの世界や文化に歩みより入っていくことが必要である。
その後、初めて彼らを我々の文化や世界に、ひとりひとり手をとるようにして導いてくることができる」
もしお子さんが自閉症かな?と思って心配になったら、決してひとりで悩まずに一度経験のある専門家に相談してみましょう。
きっと明日につながるヒントをもらえるはずです。
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